親日が議論になった「青燕」
「海角7号」で思い出した。「青燕」という韓国映画があって、これはだいぶん前に見たんだけど、韓国内で「親日映画だ」「いや違う」と大騒ぎになった。
この映画は、朴敬元という実在の初の朝鮮人女性飛行士がテーマの作品。割といい映画で、そこそこ面白い。
当時の飛行士は、今で言えば宇宙飛行士ぐらいにあたるんだろうか。しかも女である。大変だっただろうと思う。
ところが、この初の女性飛行士が親日だったとか、シナリオライターが右よりだとか、なんかいろいろあって親日議論に巻き込まれてしまった。日韓で大ヒットを夢見ていたのかもしれないが、結局は散々な興業成績に終わったそうな。実際、韓国でも朴敬元は親日派とみなされてこれまでずっと無視されてきたらしい。
余談だけど、青燕が大コケした後、KBSのディレクターが戦前に韓国人が米国で飛行訓練を受けて皇居を爆撃するという「蒼空へ」とかいう反日映画を作った。しかし反日映画が好きなぼくも辟易する安っぽい映画だった。見る価値なし。
韓国は、とにかく「親日」にものすごく敏感。この青燕も、映画としては悪い映画ではないので「映画は映画として見ればいい」という意見もあるんだが、どうやら実際の主人公の日本での行跡が韓国人的には相当面白くなかったらしい。その辺を意識してか、映画の中ではそんなにエゲツない描き方ではなくて、むしろ主人公は誇り高い韓国人という感じになってるんだが。
詳しくは知らないけれど、おそらく相当キツい女性だったんだろうと思う。祖国だの民族だのというつまらない枠、そして女性という枠から思いっきりはみ出した人だったと想像する。映画でも、あまり中途半端に描かないで、むしろ、そんな型破りな人間を強調すればよかったのにとも思う。
戦前の日本でそんなはみ出し朝鮮女性が成功しようとすれば、いろいろ難しいことがあったんじゃないだろうか。朝鮮の誇りも親日も、それが役に立てば何物も厭わなかったのかもしれない。絶望的な無数の困難にも負けず、とうとう「空を飛びたい」という望みを実現させたその意志の強さは感動的なストーリーの素材になると思うんだけどな。もっとも、正面から「親日派でもいいじゃん、でも彼女は力一杯生きたんだ」なんて映画は、まず作れないだろうけど。
当時、植民地出身の女性が日本の国内で活動しようとすれば、親日でなければ生きていくこともできなかったのではないかと思う。それを「親日派」と断罪するのは易しいけれど、そのことで何か大切なものを見失ってしまうのではないか。
親日派の悪行とは、自分の欲望のために民族を売り、国を売り、そこで私腹を肥やすことなんだが、青燕の女性飛行士は彼女の望みをかなえるために直接、民族や国を売ったわけじゃない。
あれほど強く故郷の朝鮮の空を飛びたいと思った彼女の胸には、やはり誇り高い朝鮮女性の熱い血が流れていたのだと思う。彼女は親日家ではあっても、親日派ではなかったのではないだろうか。親日で悪いのなら、彼女の悪の部分を徹底的に描いて強烈なアンチ・ヒーローにしてもよかったのにと思う。
映画の中では、朝鮮の「共産主義者」テロリストやら、彼女の恋人を拷問して殺す特高が登場する。このへん、あざとい。こんなものを登場させたのは、適当に反日の味付けをしようとしたような印象がある。妙なラブストーリー仕立ても何だかなあという部分で、ラストシーンをドラマチックにするための小細工のような気がする。つまらん。人間ドラマの素材としては、面白そうな人なんだけど、本来暗い部分のある素材を無理に普通のヒロインにしようとして失敗した感じもする…けど、普通の映画と思って見るんだったらあれでよかったのかな…。
ところで韓国内で親日派の追求は、日本で言えば戦争責任の追求と同じような位置づけだから、親日行為は厳しく追求されなきゃいけない。解放後の韓国で、十分な親日清算ができなかったことが、今もなおことあるごとに親日議論を呼ぶ背景にある。だけど、韓国ではニューライトが民族左派の親日の追求に批判的だったりするから話はややこしい。この映画もニューライトっぽい匂いがするので、余計ひっかかってしまったのだろう。
確かに、ニューライトが主張するように、日帝時代を完全に否定することはできないわけなんだが、無条件に肯定するわけにもいかない。親日派でも、売国奴みたいな奴と、日帝支配下で朝鮮の近代化のために選択の余地なく親日にならざるを得なかった奴と、やっぱり違うと思うんだなあ。
このあたりはいまだに戦争責任にきっぱりケリを付けられない日本人があれこれ言うような話じゃないんだけどね。
ちなみに、面白いのは、韓国人でも社会主義左派だと結構ニューライトなんかと通じるようなことを言う奴がいること。「当時の韓国に日本を跳ね返すような力はなかったんだ。親日を非難するのは簡単だけど、なぜ韓国人民がそんな体たらくになったのかを考えなきゃ」みたいな話を聞いて、ヘェーッと思ったことがある。10年ぐらい前のことで、まだニューライトなんて妙な連中が湧いてくる前のことだ。
いまでも韓国では社会主義者はマイナーなんだが、竹島/独島についても彼らはヘェーッと言うような発言をする。先日も「独島? あんなの、欲しけりゃやるよ」と言われちまった。
韓国と言っても、いろいろだよね。
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