レイバー・ソング
久々、しっかり風邪を引いてしまった。
で、数十時間眠りつづけた後、布団を引っ被って聴いてたのがレイバーソングだった。何年か前に買ったCDで、米国のレイバーソング名曲集みたいなやつで、その名も「クラシック・レイバーソングズ」。ピート・シーガー、ウディ・ガスリーといった有名どころから、ポール・ロブソンやジョー・グレイザーといったちょっとディープなシンガー、そしてぼくもよく知らないシンガーや新旧の録音と、いろいろお得なレイバーソングの詰め合わせである。
レイバーソングと言っても、韓国の労働歌謡みたいに勇ましかったり重かったりしないし、日本の労働歌みたいに歌声喫茶的ムズムズ感もない。まあ、つまり一昔前のモダンフォークなのだが、「クラシック」と銘打つだけあって一昔どころじゃなく古い曲も多い。一番古い曲だと100年近く昔の曲もある。たぶんこのCDの中では1910年代のSolidarity Foreverが一番古い。これは今でもよく歌われてる名曲。もっともSolidarity Foreverはリパブリック賛歌の替え歌だ。あれ、リパブリック賛歌はジョン・ブラウンの遺体の替え歌だっけ。まあ、いいや。
とにかく替え歌はレイバー・ソングの基本だが、「クラシック」には"Ballad for Casey Jones"の替え歌(たぶんピート・シーガー作?)が入ってる。列車事故の被害を最小限にするために、最後まで警笛とブレーキを離さずに死んだ伝説的な機関士の英雄、ケーシー・ジョーンズが、こともあろうにスト破りにされちゃったバージョン。
実際にはケーシーは人員の都合で呼び出されて機関車を運転していたそうなんだが、これがこの歌ではスト破りということにされて、ガタガタの機関車を運転して事故で死に、天国に行ったら神様に「天使がストライキ中で音楽がなくて困ってる。天使ストを破壊してくれ」と言われて得意のスト破りをすると、天使組合No.23により天国から追放されて地獄に堕ち...、という、なんともすごい替え歌。で、これを作ってくれといったのが鉄道の組合だってんだから、日本人的感性としては悲惨な事故で死んだ国民的英雄を神様まで持ち出してパロッちゃうのは、すげーなと思う。あるいは、鉄道側がいつもケーシーを持ち出してひどい労働搾取をしてたのかもしれない。あるいは、夜中でも会社から呼び出されたら条件反射みたいに飛び出していく犬のようなポッポ屋だったのかもしれない。だけどまだ組合もない時代だからねえ。
替え歌ついでに、ぼくの好きなレイバーソングにユニオン・メイドという歌があって、このCDにも入ってる。メイド喫茶の組合の歌ではない。この場合のmaidはmaidenの意味で、「組合姉さん」くらいの意味になる。ウディ・ガスリーが女性労働者の組合に頼まれて作った歌で、組合の姉さんは強い、オヤジの上司が変なことを言ってもハネつける、組合潰しにも負けない、組合に入ってるから何も怖くない、というような内容。
で、これはカントリーのレッド・ウィングという歌の替え歌なのだが、元をたどればこのレッド・ウィングもシューマンのピアノ曲のパクリ。パブリック・ドメインを改作して著作権を主張しちゃうんだからアメリカってすごい国だと思うんだが、元々米国は建国当初、英国のパクリで稼いでたわけで、大陸のパクリぐらいなんてことはないんだろう。ユニオン・メイドの著作権処理がどうなってるんだか、ちょっと興味のあるところでもある。まあ、当時のレイバーソングはそのあたり緩かったんだろうけど。
普通の歌でもいろんな派生バージョンがあるものだけど、替え歌が得意なレイバーソングには特に様々な派生バージョンがある。
最近まで知らなかったのだが、米国のオバマ大統領の就任式だかでピート・シーガーが"This Land is Your Land"を左翼バージョンで歌ったとかで話題になったそうだ。大したことのない歌詞なんだけど、教会の塔の下に腹を減らした人たちがいる、とか、この先私有地の看板、何も書いてない裏側がぼくたちの国だとか、まあ、そんな程度なんだがそれでも40年代のレッドパージの時代には危険な歌詞と思われていて、最近までほとんどこの部分は歌われなかったというから、米国ってホントひどい国だと思う。大統領就任式でその部分を歌った/歌わせたってのは、まあ、偉いというべきなのか、それが当たり前だろというべきなのか。ただし、この部分の歌詞はウディ・ガスリー作。ピート・シーガーは、それとは別に、いくら働いても金持ちのおこぼればかり、だとか、この土地はあなたの土地、でも以前はぼくたちの土地だった、というネイティブ・アメリカン・バージョン、生きとし生けるものの国という環境バージョンなんかも作ってるそうだ。
先日、23年間の解雇撤回闘争を続けてきた国鉄労働者の闘いが一応勝利的解決をしたというニュースがあったばかりだけど、このCDを聴いて「ああ、こんな歌もあった」と思ったのは、One Day Moreという歌。たとえ会社が20年頑張っても、われわれはそれより1日だけ長く闘おうという内容。相手が根負けするまで闘えば勝ちだという労働運動の鉄則なんだけど、国労の解雇者たちは20年どころか、「もう1日」を何百回となく、千回近くも続けてきたわけだ。本当に凄いと思う。
このCDにはVDT労働に関する歌のように新しめのものも入って煎るけど、やはり「クラシック」だけあって1930年代の大恐慌の時期から1940年代にかけて、米国でも労働運動が活発だった時期の歌にいいものが多い。まさにウディ・ガスリーやピート・シーガー、そしてジョー・ヒルの直系と言える組合シンガー・ソングライターのジョー・グレイザーなんかが活躍していた時期だ。映画で言えば怒りの葡萄や地の塩といった名作が撮られた時期にあたる。
1950年代から60年代にかけては、アカ狩りの時期で、さすがに歌声も低くなる。残念なことに、ウディ・ガスリーは50年代に病気にかかり60年代に死んでしまうのだが、ピート・シーガーは60年代の公民権運動や70年代の反戦運動の中でいい歌をたくさん作った。それまでのいかにも労働運動らしいゴリッとした感じではないけれど、Where Have All the Flowers Gone?だとかIf I Had a Hammer、Turn! Turn! Turn!などの名曲がある。
ウディ・ガスリーが長く生きてたらどんな歌を作ったんだろうとも思う。天才は夭折するもんだけど、残念なことだけど、ガスリーの伝記映画(わが心のふるさと)には気に入らない歌を歌うぐらいなら道端で歌う、と破格の契約を蹴ってしまうようなシーンもあったりするので、むしろジョー・グレイザーみたいに地味な実力派って感じの活動を続けたんだろうか。
ウディ・ガスリーというと、どうしても映画のイメージで、ジョー・ヒルもそうだったけどちょっと俗世離れした放浪の吟遊詩人か芸術家という印象が強い。あまりショービジネスで成功しそうもないタイプに思えるんだが、実際に破格の契約を蹴るようなことをしてたみたいで、映画のフィクションとばかりも言えないようではある。
ところで、風邪で寝ながら聴いてたからか、レイバーソングのCDを聴いて「ああ、アメリカのレイバーソングなんだ」と思ったことがある。組合に入れば年金や健康保険に入れる(とゆーか、組合に入って争奪しなきゃいけないんだが)といった内容の歌がいくつもあるのだ。日本では、半端に年金や保険があるし、簡単に労組を作れるので組合のありがた味が薄い。米国の場合、年金や保険は、場合によっては給料以上に重要だったりもする。
日本も年金はすでに怪しいし、保険もおかしくなりつつある。それでいて、労組は果てしなくだらしない。国家は没落の一途をたどっている。無権利状態の労働者ほど悲惨なものはない。
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