社会運動団体のためのWeb戦略
2008年6月にMediRで行った「社会運動団体のためのWeb戦略」のレジュメに若干の補足・修正を加えた文書です。
社会運動団体のためのWeb戦略
■ Web戦略とは
日本でもようやく最近になって「Web戦略(web strategy)」という言葉が商業分野で重視され始めた。漠然と「ホームページ」とやらを作って置いてもそれではビジネスにつながらない。「注文」のボタンをクリックさせるためには、どのようなサイトを作ればいいのか、どう運営するのか、それが「Web戦略」という概念だ。
欧米の非営利団体は、早くからマーケティングや顧客管理といったビジネス手法を組織運営に取り入れてきた。そして現在ではビジネス手法として開発されたさまざまなWeb戦略を、社会運動や非営利活動の分野に積極的に取り入れている。たとえばGoogleなどで、nonprofit web strategyの単語で検索すれば、運動団体のためのWeb戦略に関する膨大な数のハウツー本やサイトが見つかるだろう。
もちろん社会運動の活動家が、ビジネスマンの真似をする必要はない。しかし、日本の非営利団体や運動団体のWebサイトには、「何のためのサイトなのだろう」と思わざるを得ないような、意味不明のサイトは少なくない。
Webを組織の活動や運営に利用したいと思わない組織はないだろう。しかし、そのためにどうすればいいのかを考えることが、つまり「Web戦略」を立てることだ。
以下は、これまで私がさまざまな運動団体のWeb構築に関わってきた経験の中から、何を考えてWebを作ればいいのかについての留意点を並べてみる。「Web戦略」というほどシステマティックなものではないが、少なくともWebサイトの運営に戦略的な考え方を取り入れるためのガイドになるのではないかと思う。
■ 何が目的なのか
- 自分達の主張を伝えたい
- 活動内容を紹介したい
- 注目されたい
- 会員(仲間)を増やしたい
- 寄付を増やしたい
- 資金を調達したい
- ボランティアを募集したい
- 商品(サービス、情報、書籍、グッズなど)を売りたい
- 社会を良くしたい
- その他、もろもろ
「Webサイトを作りたい」、「サイトをリニューアルしたい」という時、まず考えなければならないのがWebの目的だが、目的が曖昧であるケースは少なくない。いいサイトが作れない理由は、たいてい「あれも、これも」になり、収拾が付かなくなっていること。
社会運動団体も、いくつかの部分を除けば一般企業と同じ。それぞれの団体のミッションがあり、ミッションに従った活動がある。
Webサイトの目的は、団体内部でのWebサイトの位置づけにより変わる。
■ 企業のサイトとの違いは?
社会運動サイトはサイト運営効果の指標が漠然としている
企業のサイトには 「売上向上」 という運営効果の明確な目的の指標があり、運営の意義も明確。しかし社会運動体の内部ではサイト運営の効果が抽象的であることが多く、サイトを運営することの意義を理解しているケースは少ない。
広報、情報発信に対する意識の違い
特に日本の運動団体はメディアを使って外部の不特定多数に情報を発信することに慣れていない。そのため運動の中で広報の位置づけが低い。
企業は目的達成のための予算が確保できるが、社会運動では予算や人的資源が確保しにくい
コストに見合う成果を上げるためには、サイトの設計や構築に予算と時間をかけなければならない。小さな団体では資源の確保ができないことが多い。
企業サイトに比べ社会運動のサイトは訪問者数が少ない
したがって「広告」を取りにくい。言い換えれば「広告」を気にしなくてもいい。
社会運動のためのWebサイトの方法論が確立していない
企業は未知の購買層を対象とするマーケティング、市場開拓の方法論が確立しているため、Webのような不特定多数を対象とするメディアとの相性が良い。しかしこれまでの運動は、「運動の仲間のコミュニティ」に目が向き、不特定多数を対象とする活動に弱い。つまり一種のマーケティング的なセンスが求められる。
独立性、社会的ポリシー
企業はさまざまな私的契約関係の中でビジネスを展開する。しかし社会運動のサイトでは独立性、公共性が求められる。
■ 従来の広報との違いは?
フライヤーなどによる従来の広報との違い
従来の手法はターゲットに対して情報を能動的に伝えるが、Webサイトでは、ターゲットの訪問を受動的に待つ。
Webサイトは目的とするターゲットの訪問を誘わなければならない
たとえば検索サイト対策(SEO対策)などが必要になる。
訪問したターゲットを逃さないこと
サイトの目的となる行動(会員加入、寄付、購入など)を取るまで、継続してサイトを訪問、あるいは誘導しなければならない。他のサイトへの移動は極力避ける。
■ ターゲットを明確にする
誰を狙うのか、どのような人か、その人に何を望むのか
Webサイトを作りたいというユーザーに、サイトのターゲットを尋ねると、「すべての層がターゲット」だという答えが返ってくることがあるが、それはあり得ない。必ず何かのターゲットがある。
ターゲットの分類は、年齢層、性別、収入、学歴といった企業のマーケティングで使われるような分類ではなく、ライフスタイルや社会意識、政治意識などでも分類できることに留意。
複数のターゲットを設定してもよい
複数のターゲットを設定する場合は、それぞれのターゲットに応じてサイトの構造を変えるなどの工夫をする必要がある。「万人向けの万能サイトなどは存在しない」ということを銘記すべき。
■ CRM的な発想の必要性
- 一般の訪問者
- リピーター
- 会員
- サポータ
- 居住地域
- 使用言語
- 嗜好
会員やリピータなどには、特別なアクセス権、あるいは情報提供などができるようにする。
会員の嗜好に合わせて情報を提供する方法を考える。ダイレクトメールなども効果的。
■ 業務との連携
Webは単に外部に情報を提供するだけのものか
社会運動団体の多くは、Webサイトの維持管理に十分なリソースを配分することができない。そのため、日常業務の作業や、業務で利用する各種のドキュメントとの連携を図ることで、Webサイトの維持管理の負担を削減する、あるいはWebサイトを維持することで業務の負担を軽減させることを考慮する。
■ 他のメディアの利用
- メーリングリストなどによる情報の提供とフィードバックの取得
- 携帯サイトの設置
- 紙メディアとの連携
- 外部サイトの活用
なお、外部サイトを使用する場合は、明確に「下位サイト」と位置づけ、メインのサイトでの主導権を確保しなければならない。
特に注意すべき点は、外部サイトからの「戻り」を確保すること。訪問者がメインのサイトに戻ってくる経路を持たないサイトには原則としてリンクを張らない。
■ デザイン、技術は二の次
「カッコいいWebサイト」はダメ
Webサイトの美的デザインは一番最後でいい。
「サイトのデザインが気に入ったから会員になる」「サイトがきれいだから寄付をする」という訪問者はいないからだ。
「スゴイ技術」もダメ
一見便利そうなJavaScriptやFlashを多用したサイトは、それらのスクリプトが利用できないケースを前提に、代替インターフェイスを用意する。
ただし、Ajaxなど、操作性を上げる技術を避ける必要はない。
訪問者の役に立たないものはすべてダメ
このほかにも、Webデザイナや制作者の側としては、各種の新しいWeb技術を使いたいと思うかもしれない。しかし、それらの技術は、サイトの目的に寄与するものでなければならない。不要な技術は、単に管理の困難と無用なトラブルの種になるだけだ。
ただし、内容を整理して見せるレイアウトや、訪問者が目的のページにアクセスしやすくするための工夫や技術導入などについては積極的でなければならない。
重要なことは、内容とともに、レイアウトとページの構造、サイトの構造であり、デザインや表示上のトリックの優先順位は低い。
■ ヒット数と検索エンジン対策
単にアクセス数を稼ぐだけのSEO対策は無駄
いわゆるSEO対策については、さまざまなテクニックが語られているが、Webサイト全体の戦略的構造化が行われていなければ、単に「ヒット数をかせぐ」ためだけにしかならない。いくらサイトの訪問者数が増えても、訪問者を目的のページに誘導できなければ無意味だ。
小手先の「SEO対策」よりも、検索エンジンが正しく文書を文責できるように、HTMLのタグを正しく利用し、論理構造を明確にすることを考えた方が良い。訪問者の興味を引くような情報が豊富に存在することが基本であることは言うまでもない。
■ サイトの広報
検索エンジン以外の「入り口」としては、各種の印刷物にURLを記載したり、関連団体のサイトにリンクを設置する、メーリングリストなどでの広報などがある。
■ 戦略の点検と見直し
どんな戦略も常に見直しのプロセスが重要になる。間違った戦略はできるだけ早く修正しなければならない。
そのためには、サイト構築後、どのページにどのような訪問者がアクセスしているのかという情報を把握する必要がある。
問題が発見されたとき、単に技術的な措置で対応できるのか、それとも全体の戦略を見直さなければならないのか、サイトのアクセスパターンや検索語の分析、訪問者、会員へのアンケートなどを使って分析する。
点検と見直しのために、サイト設計時にあらかじめ評価項目を用意しておくといい。定期的な点検で、設計時に目的としていたアクセスのパターンが実現できているかどうか、実現できていないとすればどの部分に問題があるのかを把握する。
目標が達成できない場合、戦略自体を見直すことも必要になる。
■ 目的のページに誘導するために
必ずしもすべてのアクセスをトップページに誘導する必要はない。
適切なSEO対策で個別のページにうまく検索サイトからのアクセスを誘導する。
- トップページの適切な構成
- 検索エンジン対策
- 記事の構造、ページのレイアウトの検討
■ ターゲット指向の階層的な構造
一般の訪問者をサイトの目的のページに誘導するためには、サイトの階層をターゲットの特性にあわせて構造化する。
各団体の都合や業務内容でサイトを構造化してはいけない。目的を獲得するためには、あくまでも訪問者の特性を前提としなければならない。
■ アクセスのパターンを把握する
- アクセス分析ツールの利用 (漠然としたページビューよりも、目的のページの訪問者数に注目)。
- 訪問者ごとのアクセスパターン(リピート回数、閲覧パターン)の把握。
- 人気のあるコンテンツがサイトの戦略的な位置づけにかなっているか。
- 検索語のパターン、参照元サイトの把握。
- トップページからの閲覧パターン。
■ アクセスカウンタについて
いわゆる「アクセスカウンタ」を付けているサイトを見掛ける。しかしこれは単なる飾りや自己満足以上のものではなく、意味がない。逆に、アクセスカウンタの数値に依存したページ作りをすることになると、これは本末転倒であり、弊害の方が大きい。
アクセスの分析は、専用のツールを使って目的のページに対して設計通りのアクセスが行われているかどうかを中心に行うこと。
■ サイトの類型
ポータルサイト(Yahooなど)
情報への入り口
多数の情報を分類して掲載
情報提供サイト(新聞など)
多数の最新情報
更新が多い
各種の最新情報を整理して提示
雑誌型サイト
従来の雑誌のオンライン展開
実用記事
記事を有料・無料で公開
イベントサイト
特定のイベントに特化
イベントの情報提供
ブログ
単一のイシュー 記事の内容が重要
企業サイト
ホームページは簡素
組織・事業に階層化されている
外部からのコンタクトの窓口
Eコマースサイト
商品を分類して表示
目的は商品販売
商品に関する情報の提供
個人サイト
各種の興味に特化
内容やパターンは雑多
社会運動系サイト
企業サイト、情報提供サイトの中間的な類型
■ コンテンツの配布と著作権
サイトのコンテンツをどのように位置づけるか。 著作権は何に設定するか。
- コンテンツは有料
- コンテンツは無料
- All Right Reserved
- Creative Commons
- GNU FDL
- その他
商用サイトでは、コンテンツを目的のページに誘導するために使用。
社会運動団体では、コンテンツ自体が目的になり得る。
コンテンツにアクセスさせることのメリットは何か。
コンテンツ自体を目的とすると同時に、さらに別の目的に誘導するために使う。
自由に配布が可能なコンテンツを自サイトに誘導するための配布物として位置づけることも可能。たとえばウォーターマークなど。
■ 技術的なポイント
RSS、ATOMの配布
他サイトからのアクセスやリピータ確保に有効
ユニバーサルアクセスを心掛ける
多くの社会運動団体にとって少数者は重要なターゲットである
ドメイン名、URLを変えない
リンク先にURLのメンテナンスを望むことはできない
URLを変更する場合は以前のURLに必要なリンクを置く
リンクをたどってアクセスしてきた訪問者を逃がさない
ロジカルなページ作り(XML)を心掛ける
機械的な処理が可能なページは、ドキュメント的価値が高い
古いコンテンツの管理を欠かさない
サイト内部の間違った情報は訪問者をとまどわせる
フレームは使わない
検索サイトからの訪問者への対応ができない
適切なメニュー
どのページからも各セクションにアクセスできるようにする
■ ページ作成時の技術的留意点
HTMLの標準に従う
自己流のHTMLはSEO対策上不利
不適切なHTMLは表示上の問題を起こしやすい
スタイルシートを使う
サイト管理の手間を省く
ページはスクロールを少なくする
操作の便宜
クリックさせたいメニュー項目が画面からスクロールアウトすることを防ぐ
写真はリサイズする
リソースの浪費を防ぐ
複数のブラウザ、複数のOSで表示を確認する
ブラウザやOSによって表示は異なる
文字コードに注意
シフトJISは使わない
丸数字、ローマ数字は使わない
■ サイト管理・運営上の技術的ポイント
CMSの活用・共同管理
特定のスタッフにまかせない
必須のコンテンツについては、担当者の責任で掲載するようにする
ワークフローの活用
バージョン管理
文書はバージョンで管理する
文書を更新した場合に、その履歴を残す。
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